第一話 織田信長、現代の伊豆下田へ

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 「…大丈夫じゃ、安心せい。オマエ達の父上を見つけたら一緒にオマエ達の所へ戻る。必ずだ。…約束する。」  「絶対じゃ! 絶対じゃよ!!」  「ああ、絶対じゃ! 童はオマエ達の母上じゃ。約束は必ず守る!!」  そう言って、濃姫は子供たちと指切りして約束を誓った。そして子供たちを老婆や女中たちに「頼んだぞ」と言って預けた。老婆たちは「お任せを」と言って答えた。彼らの目にも涙が出ていた。濃姫はそんな彼らを抱きしめたり、一言ずつ言葉を交わしていったりした。刀兵らの1人は、濃姫に予備の刀を差し出し、濃姫は受け取った。  「姫様、どうか達者で!」  「ああ、無事に逃げられるよう祈っておる。そして、オマエ達の健やかな未来もずっと祈っている。」  その時、濃姫らの周りにも次々と火の手が上がった。火の周りが早まっているようだ。これ以上この場にいると全員焼け死んでしまうだろう。  「さあ早く、逃げろ!!」  濃姫は、急いで彼らを逃がした。彼らは涙を流しながら深く一礼したのち濃姫に背を向けると、急いでその場から走り去っていった。濃姫は彼らの姿が見えなくなるまで、その場で手を振って涙をのみながら見送った。  「…達者でな。」  濃姫は止まらぬ涙を手で拭いて気を取り直すと、信長を探す為、轟々と燃え広がる火の中を進んで行った。  火の勢いはとても強かった。至る所で味方兵や女中らの死体が転がっており、焼けて黒ずんだ瓦礫などが天井から落ちてきていた。死んでいた味方兵や女中らは全員が馴染深い者達ばかりだ。つい数時間くらい前に笑顔で会話していた者らの死体もあった。それらを見て悔しくなるばかりだ。そして、彼らを殺めた者達全員がとても憎くなった。  その時、不意を突いて刀を持った数人の敵兵が濃姫に襲い掛かろうとした。しかし強い憎しみを持った濃姫は、その敵兵らの攻撃を次々と避けると、先ほど受け取った刀を使って全員返り討ちにした。  その敵兵らを倒したのち、濃姫は本能寺の本堂へとやって来た。ここも既に火の手が回っていて周囲の壁などから火の手が上がっていたが、まだ本堂の中央付近には火の手が上がっていなかった。ここに信長がいるはずだと思ってやって来たのだが、そこに信長の姿はなかった。  「どこじゃ、信長! どこにおる!!」  すると、濃姫の後ろに誰かいる事に気づき、すぐに濃姫は振り返った。  「オマエは…!!」
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