第一話 織田信長、現代の伊豆下田へ

9/47

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ
 事の始まりは、2016年4月初旬頃の事である。  橋崎伊織(はしざきいおり)は、伊豆下田の市街地から西方に車で10分ほど走った山間の田園地帯が広がる大賀茂(おおがも)という地区に住む20代前半頃の若い女性だ。一時期は大学に通う為に東京に単身上京していた時もあったが、生まれも育ちもこの下田である。  伊織は、地元の静岡県立伊豆南(いずみなみ)高校に正教職員として勤めている。教員歴はまだまだ浅い2年目だが、先日、人事によって1年生のクラスの担任の1人に任命されてしまった。副担任は同学年で昨年経験したばかりだが、担任を受け持つのは初めてで伊織にとっては荷が重かった。担任になるのは早すぎると思っていたが、校長は「貴女なら大丈夫よ」とニッコリ顔だ。ちなみに、副担任には今のところ決まっていないが、校長いわく「経験豊富な人を任命させるから」との事だ。もう入学式目前なのに副担任がいまだに未定なのはどうかと思うが…。  伊織の家は、県道から少し山間に入ったところにある二階建ての建物だ。周囲に家も少ない静かな場所だ。この家は、元々は亡き祖父母が建てた持家であるが、伊織が大学生で東京に上京生活をしていた頃に、両親が新しく家を建て替えたので築年数はそれほど経っていない。前の家では築年数が経ち部屋数も多くなかった為、今年大学受験を控えた高校生の妹の凛(りん)と相部屋だった。しかし、今の新しい家では念願の独立した自分の部屋を妹共々手に入れることができた。ちなみに、凛が通っている高校は、伊織が教師を務めている高校だ。でも伊織は1年生の担任で凛は高校3年生だ。授業も主に1年生の担当なので、凛と同じ教室で、教師と生徒として授業で接する事はない。  伊織や凛の両親は職が違う共働きだが、先日、父の幹夫(みきお)が沼津へ、母の早苗(さなえ)が三島へと転勤が決定。家族で話し合いの末、職がある伊織と受験生の凛を実家に残して、両親は三島で部屋を借りて移り住む事になった。現在はその引っ越し作業も終えており、両親は既に三島での新たな生活が始まり、下田の家は伊織と凛の2人で暮らしている。家事炊事は伊織と凛で分担し、伊織が食事に洗濯や買い出しに家計などを担当し、凛が風呂掃除やゴミ出し、伊織が仕事で疲れた時のマッサージ、買い出しの荷物持ちなど雑用を主に担当することになった。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加