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九条橙夜
「君は、思い出を守っていくんだ」
そう言って、霜月未早は小さく笑った。魔女を自称する彼女らしい、不吉を感じさせる表情だった。
「思い出を守る? そんなの、何の意味があるんだ」
左目の奥が、ジクリと痛んだ。
昔話は好きじゃなかった。思い出したくない記憶はいつも僕を傷つける。
僕の返答に、霜月未早は呆れたようにため息をついた。
「決まっているだろう?」
霜月未早の瞳は白く濁っている。光を捕らえられないはずの彼女は、それでもまっすぐに僕を捉えていた。
「友達を守るためさ」
それは、雪が降り積もる冬の出来事。薄暗く静かな病院で、僕は魔女と契約を結んだのだ。
霜月未早の言葉が意味していることは、今でも分からない。
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