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「極上の美味を注文したら、生まれ変わらせてあげるよ」
食堂の店主が言った。
「その注文が飛び抜けて珍しいものだったら、生前の記憶を残してやるから」
店主がぶっきらぼうな声で続けるが、とんと意味がわからなかった。
僕はまわりを見た。
薄暗い照明に誰も座っていないテーブル。
“注文は店主に”と張り紙のある壁。
割り箸と調味料が置かれたカウンター。
コトコトと音をたてる大鍋からもれる湯気の向こうに、店主が丸イスに腰かけて僕を見ていた。
「注文が決まったら言いな」
店主が告げると雑誌に目を落とす。
ふと横のカウンターを見ると、太った老人と、くたびれた中年男と、平凡な若い女が座っていた。
3人は僕と同じく、自分の置かれた状況が飲みこめないように戸惑いの表情を浮かべている。
「あ、あの、この食堂は何ですか?」
若い女がおずおずと訊いた。
「冥途の出口にある食堂だよ」
店主が雑誌に視線を落としたまま答える。
「冥途って、ここは地獄なのですか?」
今度は中年男が訊ねた。
「天国、地獄、あの世、黄泉の国、まぁ、呼び名は娑婆で色々と言われているが、死んだ者が再び生まれ変わる前に留まる場所だな」
「わしは生まれ変われるのか?」
老人が確かめるように問い質した。
「そうだよ。ここは冥途の出口にある冥途食堂。生まれ変わる前に、本当の意味での末期のめしを出す店さ」
末期のめし──生命が尽きる前に食べたいと思う食事か。
「なぜですか?」
僕は言葉足らずながらも質問した。
すると店主が顔を上げて僕を見る。
その顔の肌は青く、髪と髭は赤く、ぎょろりと剥いた眼は鷹のように鋭かった。あきらかに人間ではない。
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