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それはどんどんととてつもない早さで真鵬を蝕み、吐き気も手伝って自我を保てなくなっていく。このままだとまずいな、とわかっていてもコントロールできない。
「おいおい、まじかよ……。この子、犬になってきてるぞ」
顔を覗き込んでいた赤い男──もといエンも冷静さを失いつつあった。真鵬の頬をぺしぺしと叩くもうずくまるばかりの少年の体には黒い短い毛が生えはじめ、その目はうっすらと赤く染まっていた。
「融合適正値(ゆうごうてきせいち)が高すぎるって。これどうにか食い止められないの?」
「今試します。どいてください」
「どいてくださいって……俺の扱い随分雑だな」
ヒロナは懐から長い巻物を取り出すと空中で広げた。
「縛抑(ばくよく)の陣──二段締絞(にだんていこう)!」
なにやら漢字で書かれた魔法陣のようなものが所せましと書かれている巻物に手のひらを押し付けると魔法陣は黄色に光り、巻物から押し出されるような形で一直線に真鵬に向かっていく。
──ニクイニクイニクイニクイニクイニクイ……。
体がわなわなと震え、犬歯が鋭く尖った真鵬の姿はもはや異形だった。肌色をしていた皮膚は全て墨のような黒い毛に覆われ、双眸は燃えるように赤く、鼻や口は犬のように突き出ていた。耳もハウンド犬のものと同じ形をしている。
「ニ、ニ、ニクイ……ニクイイイイイイ」
そう空に叫ぶが早いか、ヒロナの放った魔法陣が真鵬にクリーンヒットする。すると魔法陣は長い一本の縄のようになり、まるで生きているかのようにシュルシュルと体に巻き付き、きつく真鵬を締め上げた。
「ウウウウッ」
体を捻って縄から逃れようともがく真鵬に別の巻物を取り出し、さらに魔法陣を当てようとするヒロナをエンが手で制す。
「これで充分だ」
「しかし……」
「リハビリ、リハビリ!」
エンはヒロナににかっと笑ってバタバタともがく真鵬の前に立ちはだかり、ひゅう、と短く口笛を吹く。
「俺が寝てる間にヒロナは強くなっちゃって。俺は『やみあがり』だから墓地でリハビリテーションですよ。ねえ、黒いわんちゃん」
黄色い魔法陣に締め付けられる真鵬を見下ろし、腕にまとわりついている炎を左の掌に集める。小さなマッチほどの火が一気にたき火ほどの大きさになった。
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