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「ちょーっと痛いかもしれないけど堪忍な」
どこからともなくピシッと音がした。
その音に違和感を覚えたエンは動きを止める。気になって足元にいる少年に視線を落とすと、目を丸くした。
「……こりゃ驚いた。わんちゃん、その魔法陣にヒビ入れることできるの。それ中々強い拘束陣なんだけど」
散々もがいた結果なのか、真鵬を捕らえている魔法陣には無数のヒビが入っていた。ガラスにヒビが入るように、徐々にヒビの範囲は広がっていく。魔法陣から解放されるのは時間の問題だった。
「やっぱりただのヘルハウンドじゃないってか」
「エン様、やはりもう一度陣を……」
「いらないって言ってるだろ。俺にも参加させてよ!」
「力ずくで抑え込むには危険です」
「危険を冒さなきゃ今の俺は使い物にならないよ?」
「……わかりました」
渋々引き下がる部下を確認し、今にもヒビ割れそうなヒロナの拘束陣から解き放たれようとしている真鵬の腹に思いっきり左の拳を打った。ウグッという苦しそうな声を漏らしたのも束の間、案の定魔法陣は割れ、怒り狂った真鵬──もはや真鵬なのか犬なのかわからないが──は眼下の燃え盛る左腕に噛みついた。
「いいねえ!そのガッツは嫌いじゃない」
エンは噛みつかれている左腕を自身の体のほうにぐっと引き、一瞬にして炎を空いている右手に移す。バランスを崩した真鵬は体勢を立て直せなかった。
「ちょっとおねんねしなさい」
真鵬の後頭部に炎の手刀と化した右手を振り下ろすと、今までの暴れっぷりが嘘だったかのように静かに首をうなだれた。
薄い光がまぶたを刺す。
それに刺激されて何度か瞬きをすると、見覚えのない天井が目に映った。自分の置かれている場所を考えるよりも早く、真鵬は勢いよく体を起こした。
「いたた……」
全身に痛みが走り、つい眉をしかめる。特に腹と首の後ろがひどく痛む。
「おあっ、びっくりした!急に起き上がるなよ、心臓に悪いじゃんか」
声がするほうに顔を向けると、少し離れたところにある椅子にエンが腰かけていた。気味の悪い猿の面を付けていなければ赤いかつらもかぶっていない。真っ赤な陣羽織も脱ぎ、今はただ墓地で見た人懐っこさを帯びた目で真鵬を見つめている。
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