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──終わった……。さようなら、俺の安眠。ふざけんなよ、俺の負けず嫌いめ。
真鵬はほんの少しだけ霊感がある。幽霊やそういった類いのものが見えるわけではないが、いわゆる心霊スポットや墓地などに行くと感じるのだ。人ではない『なにか』を。
そういうものを感じた日には必ず悪夢にうなされる。毎回夢の内容は覚えていないのだが、とてつもなく怖くて、目覚めが最悪なのだ。寝汗もひどい。
しかし真鵬の負けず嫌いな性格上、ここで断るという選択肢はなかった。事実、勝手に口から出た言葉が「行くよ、行く行く」なのだ。
真鵬は自分自身を恨んだ。恨むのはこれで何回目だろうか。
この負けず嫌いが災いして今まで何回も痛い目にあってきた。
ある時は苦手な教科のテストの点を争って負け、またある時は運動会や体育祭で足の速さを競って負けた。
小学生の時には木登りできないことをクラスメイトに馬鹿にされ、登れもしないのに無理やり登って木から落ちたこともあった。案の定大けがをした真鵬は右腕を骨折してしまい、大騒ぎになった。
負けることなんて一目瞭然の勝負、いわゆる負け戦でも真鵬は引き受けてしまう性格だった。大の負けず嫌い。得をしたことはあまりない。
夜中の零時に学校の正門前でみんなと待ち合わせることになった。真鵬を入れて五人で肝試しに行く。
持ち物は必要最低限に抑えた。携帯、財布、懐中電灯。暗闇に包まれた墓地の中で落とすことだけは絶対に避けたい。
十月も下旬、日が暮れると肌寒かった。まだまだ息が白いほどではないが、じっとしていると時折鳥肌が立つような冷たい風が吹く。
「……遅いな」
零時ぴったりに来たにも関わらず、一番乗りは真鵬だった。携帯で時間を見ると来てから五分が経っている。
──まさかあいつらビビって尻尾巻いた、とかじゃないよな。
もしそうなら明日学校でしばいてやる、などと考えていると数人の足音が近付いてきた。同時に談笑する声も聞こえる。
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