第一章 深紅、漆黒、純白

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 やっぱり引き返そう。今からでも遅くない。  そう思い、真鵬は前を行く三人に声をかけた。 「な、なあ、やっぱり戻んない?」 「はあ?真鵬なに言ってんの。ここまで来たからには最後までやらないと」  昭隆が声を震わせながらも答えた。この中に誰も気を強く持って夜道を歩んでいる者はいない。真鵬は一抹の不安を覚えた。 「でもさ……」 「なんだよ。じゃあお前だけ帰ればいいだろ」 「お前らも怖いんだろ。みんな同じ気持ちのはずだ」 「うるせえな」  聞く耳を持たない三人を前に、なす術なしだった。  それなら、と本気で俊太と道を引き返そうとした時、聞こえるはずのない音が聞こえた。  どこかからか、犬の鳴き声がする。 「聞こえた?」 「なにが?」  隣の俊太には聞こえていないらしい。しかしそんなはずはない。確かにはっきりと犬が鳴いていたのだ。  近所の家で飼っている犬が鳴いている、という距離から聞こえたものではない。すぐそこに犬がいるような近さで聞こえたのだ。 「ほら、また」  小型犬ではなく大型犬の声だ。低く唸るように、その鳴き声は段々と攻撃的なものに変わっていった。縄張りに侵入した敵を追い払うかのような勢いだ。 「なあ、まずいってまじで」 「なにがだよ。犬なんて鳴いてないぞ」 「いや、吠えてる。鳴いてるんじゃなくて吠えてるんだ」 「お前大丈夫?」  怯えたように雄二が振り返る。彼の持っている懐中電灯の光が真鵬の目を直撃し、そのまぶしさに思わず目を閉じた。 「真鵬の後ろにも犬なんていねえし」 「急に振り返るなよ、目痛いだろ。それに誰も俺の後ろから聞こえるなんて言ってない」 「ビビりすぎて幻聴でも聞こえ始めたのか」 「新市だってビビってるじゃん」  軽口を叩きあっていると、目標にしていた木が見えてきた。前を行く三人の足が速くなる。  するとまたもや犬が吠え始めた。さっきよりも大きく、攻撃性を増して、なにか殺気のようなものも感じる。  このまま行けばこの謎の犬に殺されかねない。  実体もない犬に恐怖を覚えた真鵬は今度こそ引き返そうと決心し、またみんなに声をかけようと口を開きかけた。  その時、木の下でなにかが動いたような気がした。目を凝らして見てみるがはっきりとは見えない。背の低い、黒い影のようなものがちらちらと動いている。
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