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やっぱり引き返そう。今からでも遅くない。
そう思い、真鵬は前を行く三人に声をかけた。
「な、なあ、やっぱり戻んない?」
「はあ?真鵬なに言ってんの。ここまで来たからには最後までやらないと」
昭隆が声を震わせながらも答えた。この中に誰も気を強く持って夜道を歩んでいる者はいない。真鵬は一抹の不安を覚えた。
「でもさ……」
「なんだよ。じゃあお前だけ帰ればいいだろ」
「お前らも怖いんだろ。みんな同じ気持ちのはずだ」
「うるせえな」
聞く耳を持たない三人を前に、なす術なしだった。
それなら、と本気で俊太と道を引き返そうとした時、聞こえるはずのない音が聞こえた。
どこかからか、犬の鳴き声がする。
「聞こえた?」
「なにが?」
隣の俊太には聞こえていないらしい。しかしそんなはずはない。確かにはっきりと犬が鳴いていたのだ。
近所の家で飼っている犬が鳴いている、という距離から聞こえたものではない。すぐそこに犬がいるような近さで聞こえたのだ。
「ほら、また」
小型犬ではなく大型犬の声だ。低く唸るように、その鳴き声は段々と攻撃的なものに変わっていった。縄張りに侵入した敵を追い払うかのような勢いだ。
「なあ、まずいってまじで」
「なにがだよ。犬なんて鳴いてないぞ」
「いや、吠えてる。鳴いてるんじゃなくて吠えてるんだ」
「お前大丈夫?」
怯えたように雄二が振り返る。彼の持っている懐中電灯の光が真鵬の目を直撃し、そのまぶしさに思わず目を閉じた。
「真鵬の後ろにも犬なんていねえし」
「急に振り返るなよ、目痛いだろ。それに誰も俺の後ろから聞こえるなんて言ってない」
「ビビりすぎて幻聴でも聞こえ始めたのか」
「新市だってビビってるじゃん」
軽口を叩きあっていると、目標にしていた木が見えてきた。前を行く三人の足が速くなる。
するとまたもや犬が吠え始めた。さっきよりも大きく、攻撃性を増して、なにか殺気のようなものも感じる。
このまま行けばこの謎の犬に殺されかねない。
実体もない犬に恐怖を覚えた真鵬は今度こそ引き返そうと決心し、またみんなに声をかけようと口を開きかけた。
その時、木の下でなにかが動いたような気がした。目を凝らして見てみるがはっきりとは見えない。背の低い、黒い影のようなものがちらちらと動いている。
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