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「木の下になにかいる」
泣きそうになりながら絞り出すように声を出したのは俊太だった。前を行く三人の足が止まり、三人分の懐中電灯が木の下を照らす。
光に当てられて姿を現したのは血のように赤い目をし、全身黒い毛に覆われた、仔牛ほどの大きさのハウンド犬だった。低い姿勢で唸りながら恐ろしい形相で真鵬たちを睨み、今にも襲いかかってきそうだ。臨戦態勢を解く様子はまったくない。
異様な雰囲気をまとった犬の登場で五人に動揺が走った。
「い、犬……!」
「だから言っただろ!」
じりじりと後ずさる真鵬たちに合わせてハウンド犬も距離を詰めてくる。仮に犬に追いかけられるとすれば人間に勝ち目はない。
「や、野犬かな」
「このご時世に?そこそこ都会だぜ、ここ」
ははは、と空笑いする昭隆と雄二は脚が震えていた。真鵬自身も脚に力が入らない。
「あれに捕まったら死ぬな」
新市が諦めたようにつぶやいた。足が遅い新市はこの状況下で一番絶望的な位置にいる。それを悟ってのことだろう。
五人とハウンド犬はしばらくお互いに動かなかったがしびれを切らしたのか、ついに吠えながらハウンド犬が襲いかかってきた。
猛スピードで木の下から走ってくる血のような色の目をした黒い生き物に五人は震えあがり、それぞればらばらに逃げ出した。
一目散に墓地の門を目がけて走っていた真鵬は途中で懐中電灯を落とし、照らしていた足元が途端に見えなくなった。しまった、と思ったが懐中電灯を拾う余裕はない。無心でひたすら走り続けることにした。
「あの犬なんなの!」
パシリで鍛えられた脚力を活かしながら先頭を走る俊太が叫んだ。
「あれ本当に普通の犬!?」
しかし真鵬はその問いには答えられない。まず答えを知らないし、なによりも今は走ることで精いっぱいなのだ。誰かと言葉を交わす余裕などない。その点、俊太は他の四人よりも幾分か余裕があった。こういう時に普段の生活で使っている脚力が役に立つのだ。
昭隆、雄二、新市はもうどこに逃げたのかわからない。今門を目指して走っているのは真鵬と俊太だけだ。そしてこの二人を狙ってハウンド犬は執拗に追いかけてくる。
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