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「お疲れ様でした」
ナチュラルコントロールシステムから起き上がると、すぐに秘書から労いの声が掛かる。
彼女の手には淹れたばかりのコーヒーのカップがあり、俺はそれを受け取るために手を伸ばすと、自分の手首のコンソールが点滅していることに気付く。
どうやら連絡が入っているようだ。コーヒーを飲みながらコンソールを操作し、連絡を寄越してきた相手を壁に投影する。
「素晴らしい戦いぶりだったな、ジョン」
「ああ、マーティン。あの戦い、やっぱり撮影されてたか。」
ケンタウルス内でのスタープレイヤーは本人への事前の断り無く撮影され、その姿が全世界へ配信される場合がある。確かに、今回のタイタンとの戦いはさぞ迫力のあるショーだったことだろう。
「PVは今期で最も高い数値にまで達した。スポンサー達も喜んでいるんじゃないのか」
それはそうだろう、と口には出さず、しかし何とはなしに横目でブロンド美女の秘書を見ると、俺と目が合った彼女は微笑んだ。何と鬱陶しい。
「・・・・・・それで、マーティン。お前はわざわざ俺にお褒めの言葉を下さるためだけに連絡してきたんじゃないんだろ?」
「ああ、そんな柄じゃないからな。今朝の話にあったメディチとの提携が正式に結ばれたのでその報告と、その件でも話題に上がった女があの場に居たようなのでな、どういった感想を持ったのか聞いてみようと」
「なるほど納得。いや、あの女スゲーぞ。あのフラッシュを見たか? あんな真似が出来る人間なんて、スタープレイヤーでも居ないんじゃないのか? はっきり言って外部ツールの不正使用を疑うレベルだ」
「確かにな。だがクラン加入の際にはプレイ環境のチェックを受け続ける義務があることをメンバーは了承する必要があり、それはあの女も例外ではない。ナチュラルコントロールシステムのログを洗うことだって出来る状態で、そんな真似をするとはあまり考えられない」
「ああー・・・・・・まぁな。じゃ、偶然フラッシュが上手く当たった感じなのか。いや、奇跡か」
俺の気を少しでも引けたのだから、あの女にしてみれば一生に一度の奇跡だっただろう。
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