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「こんにちは藤嶺さん」
ショーケースを開けようとしていた手がピタリと止まる。
フードを深く被っているため表情は伺えないが、心なしかがっかりしているように見えるのは蓮がなにか藤嶺の邪魔をしてしまったからだろう。藤嶺はショーケースに触れる前に周囲を確認していた。
「……なに?」
暫しの間を置いて返ってきた返事は素っ気なく、一向に藤嶺が振り向く気配もないが、蓮は意に介さず用件を切り出す。
「お店に飾る花が欲しいのですが、俺はこういうことには疎くて。良ければ見繕って頂けませんか?」
「……予算や希望は?」
「お任せします」
すると無言で動き出した藤峰に対し、蓮は店内を見回す。藤嶺に言ったとおり蓮は花に疎く名前も分からないが、それでも暇を潰すには十分すぎるほどの多種の花が活けられている。
次の花に視線を移そうとした時、綺麗に包装された花が視界を遮るように目の前に差し出される。
「……ほら」
「ありがとうございます。これは、コスモスですか」
「……ちょうど仕入れたばかりの新鮮なやつだし、コスモスならアンタも店に来る客も知ってるだろ」
「助かります」
思わぬ気遣いは意外だったが、藤嶺の言う通りコスモスなら花に疎い者でも分かる上に馴染みやすいだろう。蓮に遣いを頼んだ和菓子屋の女将も喜んでくれると思う。
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