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男に促され、袴田は妻に起きたことを全て話した。
「妻には時間がないんです……。何とか……自分の全財産で何とかなりませんか」
「そうでしたか……それは大変でしたね。ですが、どのような事情であっても値引きは出来まっせん。なので貴方には購入ではなく寿命の受け渡しを提案しまっしょう。貴方の財産には寿命も含むということで宜しいですよね?」
男の提案に今度は袴田が首を傾げた。
「寿命の受け渡し……ですか? それは、自分の寿命を妻に分け与えるということでしょうか……」
そう言葉を発しながら、瞳に力を取り戻していく。
「ご名答です!!」
男は指を弾き、満面の笑みを見せる。
「そんなことが出来るのであれば――是非お願いしたいです!! 自分の寿命を妻に渡して下さい!!」
袴田はカウンターに両手をつき、男に頭を下げた。
「畏まっりまっした。では手続きを進めまっす。手数料は受け渡す寿命の20%です。貴方の寿命から差し引かせて頂くのでご了承下さい」
こうして袴田は寿命の受け渡しを注文した。受け渡す寿命は十年。手数料として二年の寿命が必要となるので、袴田の寿命は十二年短縮されることとなる。
まだ三十代前半の袴田はもっと多くの寿命を渡すことも考えたが、自分の寿命があと何年かも分からない状況に恐さを覚え、まずは十年渡すことに決めたのだ。
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