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五年後――――
「いらっしゃいまっせ。あ、袴っ田さまっ! いつも御利用ありがとうございまっす」
この頃には袴田はこの店の常連となっていた。
「マスター、今日はこいつの寿命の受け渡しを頼みたいんだ。取り敢えず十年で」
袴田の傍らには、酔い潰れ意識の朦朧とした若いサラリーマンがいた。
手続きを進める中で、青い紙に書いた名前は……寺嶋拓也。この若い男の名前だ。
二枚の赤い紙には、袴田の名前と妻の名前が書かれた。
あれから、袴田の妻の寿命は無事延長され、二人は幸せな日々を過ごしていた。
しかし日を追うごとに、不確定な自分の寿命に対する恐怖と、妻の寿命の期限に対する不安が増していき、いつからか幸福な日々から恐怖と不安に支配される日々へと変わっていった。
そこで袴田が取った手段が……他人の寿命を奪うことだったのだ。
ちなみに袴田の妻はこのことを知らない。
「ありがとう、マスター。また来るよ!」
「はい、またの御利用お待っちしておりまっす!!」
カランカランとドアベルが鳴り響き、また店内に静けさが戻った。
「この間は外国人観光客で、今度は酔っ払いですか……。次は誰を連れてくるやら。袴っ田さんにはハッピーエンドを期待していたのですがね、残念です。人間の欲というものは恐ろしい。でも……とっても面白い!! ククク」
男の笑い声がいつまでも店内に木霊し続けた。
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