俺の飯を食うな

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すると、僕の髪をすーっと風が撫でた。懐かしい匂い。 閉じた目を開けると、僕は自宅の前に居た。 これは夢なのか?僕はフラフラと自宅へ入っていった。 間取りもはっきりと覚えている。この突き当たりを昇れば 僕の部屋だ。懐かしい匂いがどんどん濃くなってきた。 たぶん、これは卵焼きだ。母の作る卵焼きは甘くふわふわだった。 僕は思わず、ダイニングのドアを開けてしまった。 「あら、今日は早いわね。制服まで着ちゃって。いつもこうだといいんだけどねー。」 嫌味を言いながらも、母は笑顔だ。 「何ぼさっとしてんの。早く、食べちゃいなさい。」 夢にしてはなんてリアルなのだろう。夢ならさめないで。 僕は泣きそうになった。 「いただきます。」 僕が手を合わせると、母がぎょっとした顔をした。 「今日は礼儀正しいわね。気持ち悪いー。」 とへんな顔をした。 いつも僕はご飯を食べる前にはそうするのだけど。 何か様子が変だ。 ふわふわの甘い卵焼き。なんと焼き鮭がある。 お味噌汁、海苔。どれもこれも久しぶりに食べるご馳走だ。 「ご馳走様。」 僕は手を合わせてすぐさま、食器を流しに片付けた。 その様子を母があっけにとられて見ていた。 母は僕の母だが、なんだか様子がおかしいな。 僕は落ち着かなくて、自分の部屋へ戻ろうとした。 すると誰かが二階の僕の部屋から降りてくる音がした。 僕は目を疑った。パジャマ姿の僕だ!僕は慌てて、玄関の外に出た。 二階から降りてきた僕は眠い目を擦りながらおきてきて、玄関から出る僕には気付かなかったようだ。 どうやらこれは夢ではないらしい。 僕は、たぶん核戦争が起こらなかった、違う世界、すなわち異世界に来てしまったようだ。 数分後、賑やかにカバンを持ったもう一人の僕が、靴をひっかけてばたばたと玄関を出て行ったのだ。 もう一人の僕が出かけてしばらくして、母がパートに出かけた。 僕はそれを見計らって、鍵の隠し場所である植木鉢の下からなんなく鍵を見つけ、我が家へ入って行ったのだ。
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