第四章

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 最近、今のままでいいのかよく分からなくなることがある。結局、これでいいんだと自分に言い聞かせて、彼女の川島田優にメールしたりして、悩んでいたことさえ忘れてしまう。  幸せってなんだろうね? そんなことを書いたノートをこの前優に見られて、相変わらずポエム男子やってるねと笑われた。勉強もスポーツも万能なパーフェクト女子の優がおれみたいなダメ人間の彼女でいてくれることには感謝してるが、おれの悩みを笑うのはやめてほしい。  高二になってすぐつきあいはじめて、気がつけば夏休み目前。クラスの連中には一ヶ月も持たないと陰口を叩かれていたが、二人で季節を一つ乗り越えることができた。誰にも自慢できるわけないが、ひそかに誇らしく思っているんだ。  一年生のときはクラスでというより、ずっと学年でビリを争っていて、赤点や強制補習まみれだった。それが、この高二の一学期は優が勉強を教えてくれたおかげで、赤点がないどころか、クラスで十位に入れるくらいジャンプアップした。筋金入りのダメ人間の大坂強志を更生(!)させた、ということで優の名声はさらに高まった。一方おれは優しい飼い主に拾われて幸せになれた薄汚い子猫扱い。子猫ならそれでいいのかもしれないが、あいにくおれは子猫ではない。  放課後、陸上部の優はトラックを走る。おれは教室の窓際の席で勉強しながら、ときどき優の姿を目で追っている。九月から始まる新人戦では県大会入賞を期待されている。トラックをぐるぐる回っているだけなのに、優の背中がどんどん小さくなっていく。  いつだって君は僕のそばにいてくれる  でも 君がここにいるのは間違いなんだ  間違いが間違いのままでいいなら  僕は何も悩む必要はないのに  いつか部活の時間が終わり、波がひいていくように、グラウンドから人がいなくなる。 もうすぐ制服の夏服に着替えた優と深雪が教室までおれを迎えに来る。
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