第四章

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 深雪はおれの妹で一個下の一年生、優と同じ陸上部に入っている。おれをいたぶることを生きがいにしていて、さんざん馬鹿だのグズだのとおれをけなしておきながら、なぜかおれのいる高校に入学してきて、しかもおれよりダメな優の兄の哲也と交際している。ダメな哲也と交際しても、別におれに対して優しくなるわけでもない。毎日一回は物が飛んできたり、平手やげんこつで殴られたりする。おれにとって天敵という言葉が何よりふさわしい暴力女だ。  教室の外が騒がしくなってきた。優と深雪が迎えに来たようだ。でも、いつもと何か違う。教室に入ってきた二人は言い争いをしていて、それも口げんかというより、ののしり合いという感じだ。テストはいつも学年トップで、走力でもまるでかなわないから、深雪は優には決して逆らわないのに。  というより、喜んで子分みたいなことをやっている。おれが浮気しないように監視したり、おれにふだんと違うことがあれば即座に報告したり。そこまで警戒しなくても、筋金入りのダメ人間であるおれに、二股かける甲斐性なんてあるわけないだろ!  「で、なんでけんかしてるの?」  「聞いてよ、お兄ちゃん!」  顔を真っ赤にして、深雪が怒鳴る。  「哲也とお兄ちゃんなら、お兄ちゃんの方がずっとダメ人間に決まってるのに、お姉ちゃんったら哲也の方がもっとダメ人間だって言って譲らないんだよ」  ……それはおまえの方が譲れよ、深雪。珍しくケンカしてると思ったらそんなことか?  「くだらない。帰るぞ」  二人を置いて、おれはすたすた歩きだした。  「強志君、ごめんね。嫌な思いさせちゃったみたいで」  さすが、優はおれの気持ちをくんでくれる。  「別にいいよ。哲也さんよりおれの方がダメ人間ということで」  「今日のお兄ちゃん、なんかおかしい。いつもはもっとノリがいいのに」  深雪が口をとがらせる。悪口言われてもヘラヘラしてた、そんな今までのおれの方がおかしかったんじゃないかって今は思うけどね。  帰り道は深雪が一人でしゃべっていた。深雪のクラスにいじめまでいかないが、パシリにされてる女子がいるとかどうとか。うーん、パシリにされてるなら立派ないじめのような気がするが、所詮深雪の言うことでどこまでが本当の話か分からないから口出しはしなかった。
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