第四章

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 別れ際、優がキスしてくれたが、なかなか終わりにしようとしなかった。罪滅ぼしのつもりだったのかもしれない。  優は何をやらしても一番で、しかも友達も大勢いて、つきあう前は違う世界の人間としか見てなかったけど、今はたまに気の毒に見えることがある。いくら背伸びしたって、それで身長が伸びるわけでもない。背伸びするのに疲れて、結局おれみたいな誰からも相手にされてなかったダメ人間を彼氏に選んだ。  一年生のとき、アキレス腱を怪我して何ヵ月も走れない時期があったが、優にとっておれとつきあいだしたのはそれ以上の失敗だったのは間違いない。だって、優にとってはなんのメリットもないもの。それまで生徒どころか教師からも、非の打ち所のないパーフェクト女子と思われていたのに、今では男見る目がない馬鹿女と一部で陰口言われてるのを知っている。  おれは優とつきあうまでずっとどのテストでも学年最下位を争い、ギリギリで留年を免れて、しかもコミュ障だから友達なんていたことがない。優の父親は開業医で、あとを継いで医者になれとしつこく言われ続けて精神的に参っていたのかもしれないが、いくらなんでもこんな極端なダメ人間の彼女になることはなかったんじゃないのか。そうそう、おれは運動神経もなくて、新体力テストは全種目1点(ちなみに0点はない)だ。  悲しいのは僕が君に釣り合わないことではなくて  僕といることで 君の輝きが薄れていくこと  空飛ぶ鳥も人を愛してしまったら翼を失うしかない  君は愛より翼を選ばなければならない  陸上部の優と深雪の練習時間に合わせて登校し帰宅するから、学校で一人でいる時間が無駄に長い。教室で自主勉したりポエム書いたり、図書室の開いてる時間は図書室に行ったりするが、本を読むという習慣がないから、結局図書室でも教室と同じように時間をつぶしている。  朝は8時から開いているが、いつもそこにいるのは図書委員の当番とおれの二人だけ。こんな状態が続くなら、朝は開けてくれなくなるようになるのも時間の問題だろう。  が、この日は違った。ウトウトしかけたころ、一年の女子が四人も図書室に入ってきた。というか、なだれこんできた。本好き女子というわけではないようだ。女子たちはおれの真横を素通りして、当番の座るカウンターに向かう。
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