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「誰?」
「深雪ちゃんのお兄さんじゃない?」
「ああ、深雪ちゃんがいつも言ってるどうしようもないダメ人間とかいう?」
おい深雪。おれはおまえにそこまで恨まれるようなこと何かしたか!
「深雪ちゃんのお兄さんということは、あの川島田先輩とつきあってるっていう?」
「恋人というより、女王様としもべみたいな関係らしいよ、深雪ちゃんが言うには」
「川島田先輩の練習が終わるまで、毎日犬みたいに教室で待ってるっていうしね」
逃げ出したい。全力でこの場からいなくなりたいんですけど!
「ごめん。むかつくから消えてくれないか?」
思わず立ち上がって勢いでそう言ってしまったが、意外とすんなり四人は図書室を出ていった。なんか言い返されると思ったから、正直ほっとした。きっとおれを怒らせると、優や深雪まで敵に回すことになると計算したんだろうな。
「ありがとうございました」
いつのまにか図書委員がカウンターから出てきていた。
「気にしなくていいよ。むかついたから、勝手に口出しただけだから」
「あの……」
なんか言ってるが、声が小さくて聞き取れない。背の低い彼女に合わせて、腰を落としてみた。目の前、同じ高さにお互いの顔がある。
その瞬間、彼女が動いて、おれは唇に温かく柔らかいものを感じた。ほんの一瞬だった。すぐに彼女は自分から離れて、そのまま図書室から走って出ていった。
おい、図書委員、だから図書室の戸締まりはいいのか? いや、そんなことより……。
思わず辺りを見回してしまった。こんなところを深雪にでも見られたら、即座に優に報告されて二人から声を限りに罵倒されることになるに決まっている。
今のは事故だ。そう自分に言い聞かせて、おれも図書室をあとにした。
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