第四章

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 昼休みはいつも優といっしょに弁当を食べる。〈弁当を〉というのが密かなポイントで、優とつきあう前、成績が赤点だらけだったころは、母が弁当を作ってくれなくて、毎日昼は菓子パンだった。成績上がったら最近スマホまで買ってくれた。夜でも優と連絡が取り合えるし、これは本当にうれしかった。連絡先に登録してあるのが、自宅と優と深雪の3件しかないのは内緒だったんだけどさ。内緒だったんだけど、深雪から優にばらされてしまった。ダメ人間にだって一応プライドがあるんだ。いろいろかぎまわるのは、ほんとうにやめてほしい!  優とは同じクラスで席も隣同士だから、教室で食べてもいいのだけど、せっかく天気もいいし、優を連れて屋上にやってきた。  「強志君、今日はいつもより優しい気がする」  「き、気のせいだと思うよ」  もしかしてこれはあれか。浮気すると奥さんにやさしくなる、というクズな男の心理。おれはダメ人間ではあるが、人間のクズには絶対ならないと決めていたのに。  でも、あれは事故で、決して浮気ではない! まあ声に出しては言えないんですけどね。  「なんかいいことでもあった?」  「いや、どちらかというと、よくないことがあったよ」  「え、なに?」  一年生の女子たちがおれたちの交際について、女王様としもべみたいだと言ってたことを教えた。その話の出どころが深雪であることも。  「初めて聞いたよ、そんな話。そんな言い方されたら、気分いいわけないよね」  「おれは悪く言われるのは慣れてるからいいんだけどさ。名前のとおりに優しい君を偉そうな女呼ばわりされて、さすがにムカついたから文句言ってやったよ」  「…………」  「な、なんか変なこと言った?」  「そうじゃなくて」  優の両手がおれの両頬を包んだ。  「グッときた」  優のくちびるが近づいてくる。何が女王様としもべだよ。さっきの女子四人に見せつけてやりたいと思った。それにしても、ちょっと前までただのぼっちだったおれなのに人生素晴らしすぎる!  そのとき、出入口の方でガタッと音がして、優が飛びのいた。誰かいる。先生? ひとけのない場所での生徒同士のキスって校則違反じゃないよね? 優とは不純異性交遊じゃなくて純粋異性交遊だし、そもそもおれたちがつきあってるのは担任だって知ってることだし……。
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