第四章

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 「彩湖ちゃん、夏休みは予定あるの?」  優が聞いた。どうせ暇なんだろうから、遊びにでも誘ってあげようかなって感じで。  「ありますよ」  彩湖はうんざりしたように、  「8月あたままで赤点補習がびっしりです」  「彩湖ちゃん、勉強苦手なの?」  「自慢じゃないけど、英国数理英、全部赤点でした。ついでに保健も」  なんだそれ? せっかく図書室にいても、彩湖はおれが勉強してるのを眺めてるだけだったのだが。  「彩湖ちゃん、それなんとかなりそうなの?」  「なんとかなるくらいなら、こんなに赤点取らないかと」  「あきらめてるの?」  「とっくにあきらめてて、一学期終わったらさっさと退学して通信制高校に入り直すつもりだったんですけど、できるわけないと思ってた友達もできたから、今は三月までは残ろうかなって思ってます」  「えっと……」  優が目を丸くして絶句している。いつもクールビューティーという感じだから、クールではない優がなんだか新鮮な気がして、思わずまじまじと眺めてしまった。  「あたしと深雪ちゃんが教えてあげられたらいいんだけど、夏休みずっと部活があって」  あれ、このパターンはまずくないか?  「強志君、できる範囲でいいから、彩湖ちゃんの勉強につきあってあげてくれない?」  「おれも勉強できないんですけど」  「だから、できる範囲でかまわないから。やってみてどうしても無理なら、また考えるから」  「優さんがそこまで言うなら、やるだけやってみるよ」  そのときおれは彩湖がニタっと笑うのを見逃さなかった。  「佐野さんは友達だからね」  友達という単語を不自然に強調してやった。  「ともだちともだち……」  彩湖はずっと、呪文のように何やらとなえていた。
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