第四章

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 「先輩はあたしに同情してハグさせただけだから、川島田先輩を裏切ったわけじゃないです。ノーカウントでいいです」  彩湖がひとしきり泣いたあとそう言った。おれは答えなかった。というより、何も答えられなかった。  おれたちは図書室に戻り、勉強会を再開した。彩湖は一言も無駄話しないで赤点科目の課題に取り組んだ。  午後、四時間ぶっ通しで勉強して、疲れたと言って、彩湖は帰っていった。  帰り際、〈家でも勉強する、分からない問題があったときメールしたいから〉と言われて、アドレス交換した。あと三十分も待てば、優と深雪が迎えに来たが、彩湖は優と会いづらかったのかもしれない。  夜、〈眠れなくて〉と彩湖からメッセージが届いた。〈おれも〉とすぐに返事した。  翌日、また屋上で昼食を食べたあと彩湖と抱き合った。その翌日は抱き合ったあとキスまでした。だんだん歯止めが利かなくなってきたが、彩湖は赤点科目の追認テストをまず三科目受けて、うち二科目パスすることができた。その日は金曜日だった。  「頑張ったから、ご褒美に週末会ってほしいです」  「土曜日なら」  「日曜日は川島田先輩とデートですか」  「…………」  「どこに行くんですか」  「遊園地」  「いいなあ」  ということで、土曜日は彩湖と会うことになった。  〈明日、どこ行きたい?〉  夜、彩湖にメールすると、  〈遊園地!〉  というメッセージのすぐあと、  〈といいたいとこだけど、先輩、絶叫マシンとか苦手そうだし。あたしもだけど〉  よく分かっていらっしゃる。さすがダメ人間同士だと話が早い。  〈動物園行きたいです〉  〈いいよ〉  待ちあわせの場所と時間だけ決めて、おれたちはスタンプで〈おやすみ〉と言い合った。
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