プロローグ

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     妖艶に光る満月の夜。その冷たい月光に照らされ、妖しくも絢爛に輝く美しい巨城の前。祭りの賑わい冷め遣らぬ街人は、その門前で躍り狂う。      そんな城の奥の奥ーー。一筋の日の光さえも頑なに拒む場所。そんな場所で、二つの剣先が交わる音は、未だに鳴り止む気配を見せない。  赤土の煉瓦の壁に吊るされた松明が、揺らめきながら、そこに居合わす二人の姿を妖しく映し出す。  方や、地に両足をつけたまま仁王の如く立つ男は、背丈2メートルはあろうかと謂う巨体を、真珠色に輝く鎧で纏い隠し、その巨体の幅と同程度の刀身を携えた幅広剣を、地面に突き刺し正面を見据える。  方や、鎧の男の数メートル先、衝撃痕残る床に膝を着くのはまだ年端もいかない青年。その眼前に被ったフードの隙間から覗く瞳は、青い眼球に無数の小さな星を宿している。その瞳に鎧を捉えた刹那、青年が其の体を前傾に倒す。一歩右足を深く踏み込んだかと思うと、己の持つ白い柄の騎士剣を後方へと構える。そして、耳を突き抜けるように細く洗練された音のみを残し、その姿を忽然と消した。  ほんの僅か、コンマ1にも満たない時が流れた瞬間、青年の駆ける風圧が周囲を照らす松明の灯りを全て掻き消した。鬼も覗かぬ闇の中、今一度激しく衝突しあう二つの大剣。散らす火花に一瞬浮き上がる二人の顔。星空の瞳は、その殺意剥き出しの剣先を鎧の男に一心に向ける。  暗闇の中にあっても、騎士剣を振るう手を休めない。繰り返される激しい剣撃と、それを受け止める衝突音。震える空気が天井を削り、幾つもの塵が降り注ぐ。  深淵の闇に包まれた広間に燦然と光る無数の剣閃。それはまるで、城外で打ち上がる花火となんら遜色のないほど激しい火花を散らし続ける。 時が過ぎる事さえ忘れさせるその攻防は、もはや明るみの中でさえ常人には捉えることが出来ない程に加速する。      やがて鎧の男が薙いだ幅広剣が、宙で舞う青年の腹部へと襲いかかる。咄嗟に手首を捻り刀身の腹で受けるものの、青年は宙を2、3度回転した後、勢いのまま後方の壁へとその身を打ち付けた。    青年を中心に円形に亀裂を走らせた赤土の壁は、やがて自重に堪えきれず音を立てて崩れ落ちた。ポッカリと口を開けた城壁に、まるで絵画のように姿を表した青い満月。その身から漏れだす月光を二人の広間に流し込む。
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