王都サムサラ

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    ーーアカシックレコード(星の記録)    それは宇宙の記憶。人類が誕生するよりもずっと前、惑星の衝突した際の莫大なエネルギーのにより生まれたこの世界。まだ生命が誕生していない時代から始まり、恐竜が跋扈する時代の事さえも、それは克明に記録していると謂う。まさに神の創物、人智を超越した存在。      そんな空想の代物が、空想でなくなったのは今からそう遠くない話だ。此処、王都サムサラの王である、イヴァリスの一族により発見されたそれは、その膨大な情報によって人類に様々な恩恵を与えた。不治の病と謂われていた難病の特効薬から始まり、未知のエネルギーの発見、永久機関の発明。様々なものが産み出され、遂には【魔法】と呼ばれるものでさえ、今やその生活に溶け込んでいる。ここまで発展するまでに凡そ3年。目眩がするほど目まぐるしく、この世界は進化を遂げていった。        アカシックレコードの閲覧を許されたのは世界で唯一1人だけ。王家であるイヴァリスの一族の長であり、アカシックレコードの発見者でもあるイヴァリス・セス・コードナーのみである。若干32歳にしながら、世界に与えた貢献は計り知れない。此処までの発展も、コードナーだからこそ成し得たものだと言える。      そんな有能な指導者が率いるこの世界にも、暗い闇は内から忍び寄る。イヴァリス一族が一介に揃う会合の中、毎度の如く議題に挙がる1つのテーマ。それは【不死】である。いかに暮らしが楽になろうと、いかに受難が減ろうと、死は突然その背後から牙を剥く。    しかし、星の記憶を以てしても、不死という夢だけは叶わなかった。この世界に生を受けた限り、死とは常に隣り合わせの関係にある事に変わりはない。例え膨大な情報をその手にしようと、その情報を網羅し、いかに思考を繰り返そうが、そこだけは覆ることがなかったのだ。    イヴァリスの一族は酷く恐れていたのだ。指導者の死を、或いは星の記憶の損失を。今やその叡智と共存している人類は、それ無しの生活には最早戻る事容易くない。  自身の心の臓がその躍動を止めた時、果してこの先人類は正常な日々を送る事は出来るだろうかーー。答えは、否。目に余る超科学(オーバーテクノロジー)を扱うには、人類はまだその地点に到達していない。そう頭を悩ます彼に手を差し伸べる者はなく、一族は我先にとその耳に悪説を吹き込む。
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