王都サムサラ

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    「不死になれぬなら、時間を遡行すればよろしいのよ」       純白のドレスの貴婦人は、その薔薇のように深紅の唇を僅かに震わせた。打開策としては上出来の思考だが、そんな事が容易ではないのが普通。しかし、ハードナーはそれさえも可能にするだけの情報を持ち合わせていた。話は着々と進み、遂に其れを決行する事が決定した。コードナー以外の人間の口から黒い笑みが溢れ落ちる。      時間の遡行、即ちそれは、イヴァリス家の永遠の栄光を意味する。国民の為、そんな大義名分の裏にはそれぞれの個の欲望が渦巻いていた。      やがて時は経ち、灰簾石の月。世界が空から降り積もる雪で白く染め、地球が自転の終了を告げる月。その最期の日に、イヴァリス家は遂に作戦を決行する事になる。城外は祝焉祭で賑わい、冬を感じさせない熱気をその場に立ち込めさせている。夜空を花火が彩り、祭りを飾る催し事が至るところで開催されている。そんな祭りの興奮届かぬ城の地下深く、そこにイヴァリスの一族は集結していた。      一族が囲む円陣の中心には、重力に逆らい宙に浮き、七色の光を発色させる巨大な球体が1つ。一族は頑なにアカシックレコードの在りかを口にしなかったコードナーが、ここに一族を集めたのか疑念を抱きつつも、その圧倒的な存在に言葉を忘れていた。      アカシックレコードの真下に描かれた魔法陣に立つコードナー、軈てその円陣は彼に反応するかのように、目映い光りを放っている。     「では、始めるぞ」      言葉を終えるや否や、その両手を地へと添える。すると円陣の放つ光りはその濃度を増し、どこからか現れた無数の星が、薄暗い地下の空洞を縦横無尽に駆け巡り始めた。そしてあろうことか、その無数の流星は、周囲を囲む一族の心の臓を1つ、また1つと撃ち抜き始めた。地下空洞に響く絶叫、逃げ惑う一族。その声の中で一際響く甲高い声。     「コードナー!!これは一体どういう事なの!?」      無数の星を避けるよう屈む貴婦人。その憎悪に満ちた瞳の先に居るのは、円陣の光に包まれ無表情で立つコードナー。 「黙れスカーレット。貴様らの私欲にまみれた思想に、私が気が付かないとでも思ったのか」  静かに、しかし確かな憎悪を言葉に織り交ぜ言い放つ。スカーレットの表情は青冷め、その頭を地面へと擦り付け懇願し始めた。
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