最終話

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「…あの……」 「何?」 「…ううん。…何でもない…」 何回このやり取りを交わしたのか。 旅行から帰ってきてから、薫は"長期間"を訊こうと試みてはすぐに断念していた。 斗真の口から答えを聞くことが恐い。 だけど、知りたい。 斗真も根気強く返事をくれるが、薫が諦めるとそれ以上を何も言わない。 何か勘づいているのだろうか。 ・・結局そのまま数日が過ぎていった。 5月26日。 「斗真くん。明日、水族館に行かない?」 毎朝オムレツだったおかげか上達したツヤツヤと形の綺麗な斗真手作りのオムレツを前に薫が誘う。 出かけ先に水族館を選んだのは斗真を連れて行ってあげたかったから。 数日前にテレビで映ったジンベイザメを見てみたいとぽろっと斗真が漏らしていたのを覚えていた。 「…明日?仕事は?」 「先月、休みの日に出勤した分の代・・」 「行く」 斗真の返事は食いつき気味に即答だった。 にこにこと嬉しそうな顔をのぞかせている斗真の心の内は泣いていることなんて全く想像のついていない薫は、その斗真の顔を見て気分が昇りつつあった。 代休をその日に選んだのはたまたまだったけれど、斗真にとってはとても重要な日。
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