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「…はぁ、はぁ…斗真、くん。…ストップ」
ようやく止まって薫の方を振り向いた斗真が、肩で息をしている薫の姿に我にかえったように慌て始める。
「あっ。ごめん、かおちゃん…」
ぱっと離された手は、躊躇せず薫の背中をさすった。
「だ、だいじょ…うぶ」
口で大きく繰り返した呼吸と背中の手が手伝ってすぐに落ち着いたけれど、神社からは随分と離れてしまっていた。
「……よかったの?」
"会わなくて"という言葉はわざと省いた。
会えないのには何か理由があるというのは何となく感じていたから。
それよりも、この前も聞いたばかりでしつこいと思われるのが嫌で。
そして、自分がどう思われるかを優先して考えてしまっている自分がもっと嫌で。
見かけたのは、斗真の家族だった。
ご両親とすっかり大きくなっていた男の子。
カメラを手に3人で楽しそうに笑っていた。
「うん」
「…そっか」
斗真がそう言うなら、薫は何も言えることはない。
無言でまたこの前と同じように斗真の手を握った。
斗真も何も言わずに握り返し、その手は旅館に戻るまで離されることはなかった。
今度は繋いでいることに無自覚ではなく、たしかに互いの手の温もりを感じながら。
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