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豪勢な懐石を前によだれを垂らしそうな勢いの斗真と、今になって自分の行動に照れてきた薫。
落ち込んでいるかもしれないと思ったけれど、目に見えるには楽しそうなので少しほっとしていた。
けれど、だからこそ、手を繋ぐ必要はなかったと変に恥ずかしくなった。
こうなったら食べることに集中だ、と"握り合った手"のことは無理やり意識から追い払う。
旅館ならではの懐石フルコース。
まだ大量の夕食を前に格闘中の薫に、残らず平らげた斗真がポツリと話し出した。
「実はさ。今日通った店や神社、昔家族で行ったことがあったんだ。数日退院できた時に連れてってくれた」
「…そうだったんだ」
「うん。かおちゃんのおかげで偶然にも思い出の場所で家族に会えた」
「私は何も」
「ううん。かおちゃんと一緒だったからここに来たいと思ったし、1人だったらきっと来れてない」
「…そっか。……そっか」
もしかしたら、ただ一緒に付き合ったことに対しての社交辞令にすぎないかもしれない。
それでも、頼りにされてるって、斗真に頼ってもらえた気がして嬉しくなったんだ。
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