最終話

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5月27日。 水族館へは車で向かい、駐車場も余裕で停めることができた。 イルカの赤ちゃんの一般公開も始まったばかりで混んでいる予想に反して、平日ということもありお客さんが少ない。 それをいいことに、普段なら大人だからと常識纏って周るところをここぞとばかり自由に動き回り、水槽の壁におでこが付きそうなぐらい寄せた。 大きな水槽のトンネルの上を、悠々と魚たちが泳いでいく。 反応してくれないだろうかと真上を通り過ぎて行くエイに手を振ってみたり。 次に目に留まったのはカラフルなライトに照らされたクラゲのブース。 あまりに幻想的で、しばらくじっと見入っていたところを動いたきっかけは斗真がすっと手を繋いできたから。 驚きに咄嗟に離そうとすると力を込められて離すことができずにいて、 「暗いから、俺が迷子にならないように」 そう言ってふっと笑った顔が随分と大人びて、年下だってことを一瞬忘れた。 「…なるわけないじゃん」 こんな恋人つなぎなんて照れくさいし恥ずかしいのに、内心は嬉しくて反撃の言葉は弱々しく、本当は喜んでいるってだだ漏れかもしれない。
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