最終話

5/11
前へ
/68ページ
次へ
「かおちゃん。どうかした?」 「…あ。ううん」 「かおちゃんは笑ってる顔が一番かわいいのに。気難しい顔してブスになってるよ」 「え?そんなに?」 真に受けた薫とその様子を微笑ましく観察している斗真とでは、どっちが年上なのか分からない。 「冗談だよ」 助手席から伸びてきた手が、優しく頬をつねって口角を上げようとする。 ・・・きっと自分の気にし過ぎなんだと、薫はこれ以上は考えないようにしようと自分に言い聞かせた。 せっかくの、いわゆるデートってやつを楽しまなきゃ損だ、とも。 斗真のその手に助けられて薫に笑顔が戻る。 後部座席にはジンベイザメのぬいぐるみが置かれていた。 2人の思い出を残すように・・・。 * * * * * 「かおちゃん。本当にありがとう」 寝る前になり、斗真は薫に向かって大きくがばっと腰を折るように頭を下げた。 「大げさだなぁ。また行こうね」 オーバーな斗真の態度に小さく首をすくめて明るく答えた薫は、今日の水族館をさして言っているのだと思っているようだ。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加