最終話

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斗真の弟は今年13歳になる。 だから、斗真は弟に、家族に会うことができなかった。 斗真のことは幼過ぎて覚えていないかもしれないと仮定しても、家にはきっと写真がある。 分からないだろうと会って話していたらボロが出るかもしれない。 それを両親の前で話すかもしれない、何かを思い出すかもしれない。 そう考えたら、会いたいのに直接正面切って会うことはできなかった。 また別れなければいけないのだから、悲しませるのは分かりきっている。 薫にも別れを告げて悲しい思いをさせるぐらいなら、そんな思いをさせないまま忘れてほしい。 実際に彼女が悲しむかは分からないが、薫のことだ、別れを惜しんで泣いてしまうことは想像がつく。 すっかり寝静まっている薫の部屋を訪ねる。 月明かりだけで見える薫の寝顔を、斗真は名残惜しく見つめ続けた。 もうすぐ日付けが変わる。 「・・・・・」 これぐらいは許されるだろうか。 寝ている額に触れるだけのキスを落とした。 「…かおちゃん。……大好きだよ、…さようなら」
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