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* * * * *
頭の奥深くで、男の人の声が聞こえた。
薫が目を覚ますと朝を迎えていた。
いつ眠りについたのかも覚えておらず、少しぼーっとした頭で見た携帯の日付は5月14日。
自分の誕生日からまだ2日しか経っていないのか。
・・・なんだろう?とても長い夢を見ていた気がする。
いつもの出勤の準備にとりかかりながら、テーブルの隅っこに見つけたのは、ぽつんと置き去りにされたみたいなボタンだった。
「・・・・?」
手に取った瞬間、何かがつーっと頬を伝う。
「あれ?どうして、私……泣いて…?」
自分の頬に触れた指は涙で濡れていた。
次から次にとめどなく溢れてくる。
自分の涙なのに止め方が分からなかった。
やがて、その涙はまるで何事もなかったかのように乾いて消えた。
不思議なことを体験したな、などと他人事みたいに感じながら、無意識にそのボタンを握った手を胸に抱くと手の中がじんわりと温かくなる。
・・これは直感だ・・・。
このボタンをずっと失くしてはいけない。
そう感じて財布に入れてある御守の中に入れ込む。
きっとバチは当たらないはず。
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