最終話

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* * * * * さっきまで明るかった空が少しずつ暗くなってきている。 「お空も歌ってるね。ザァザァ歌いながら、ゴロゴロって大声出してるみたい。僕は怖くないよ」 またふいに頭に浮かんだこの言葉を、どこで聞いて誰が言っていたのか今回はハッキリと思い出した。 子供の頃に病院で出会った斗真くん。 そういえば、斗真くんの誕生日って昨日だったよね。 そんなことまで思い出す。 「遅れちゃったけど。…斗真くん、誕生日おめでとう」 自然と口から発していた。 待ち構えていたように降り出した雨が窓ガラスにあたる。 ポツポツとした音が聞こえてきて、薫は笑った。 まるで斗真くんが「ありがとう」と答えてくれた気がしたんだ。 だって、この雨は機嫌良く歌っている証拠だから。 ボタンと御守が入った財布もカバンに忘れず入れ、薫も機嫌良く外へ踏み出した。 一歩、また一歩。 誰かと並んで歩いているような不思議な気分を味わいながら。 ー Fin ー
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