迷惑な客

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ここに住む住人たちは、葉子に言わせれば、実に「もったいない」お金の使い方をしている。 金額に無頓着、というだけではない。 彼らは、新発売の飲み物が出たら、全種類いっぺんに買って、一口ずつ飲んであとは捨ててしまう、というようなことを割りと平気でする。 葉子が初めてその現場を目撃したときは、軽いショックを覚えた。 しかも、それが高校生ぐらいの男の子だったから、自分で稼いだお金でもないくせに、と余計に腹が立ったのを鮮明に覚えている。 ああ……もったいない、というのはこういうことを言うのだな、とその時妙に納得した。 そんな経験が重なるうちに、葉子はお金持ちに対してちょっとした嫌悪感を感じるようになっていた。 高いものを買う、とか美味しいものを買う、というのならまだ納得もできるのだが、何を食べたいか決められないから、全部買って残ったものは捨てる、とかそういうのがどうも納得ができない。 やはり、スーパーに勤める店員としては、食べ物を祖末に扱って欲しくなかった。 いかにお金があったとしても。 ふいに、朝の男のことを思い出す。 何気なく買った朝ごはんに1537円も使った男だ。あの男はピーチの香りのするこのお茶を買うだろうか。
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