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仕事といっても給料が与えられる訳ではない。最下級である俺達は、給料が発生するような仕事にはつけない。
簡単に言えば、上流、中流階級の『召し使い』として一生を終える。
召し使いにも最低限の衣食住が保証されており、『生きている』より『生かされているだけ』の存在であった。
決められた時間に集まり仕事をし、また決められた時間に集まる。
一緒に船に乗っていた面々を思いだすと自然と溜め息が洩れ、その未来のないような表情に無性に腹が立つ。
「おりゃあ!」
手に持つ雑巾を丸め力任せに壁に投げつけると、だらしなく床に伏せる雑巾にすら苛立った。
「ノヴァ、また怒られるよー」
後ろで結った栗色の髪と同じく栗色の瞳は、心配ごとでもあるのかキョロキョロと辺りを探っている。
「ニコルだって、こんな生活嫌だろ?」
「……まあね」
そしてニコルは大きな息を吐き出すと、次は耳で辺りを探った。
「大丈夫だよ、さっき全員出掛けたよ。会食だとさ」
「そーいうの、早く言ってよね」
そう言いながら握っていたホウキをポイッと投げ、壁にもたれかかると床に腰を下ろす。
「でもね、ふふ」
含みのある笑いを見せたかと思うと、ニコルは満面と言う言葉がピッタリな程の笑顔をみせた。
「私、冒険者になるの。合格したんだ!」
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