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私は美術室に着くと、ステンドグラスへ向かった。
話しかけても、返事はないって分かっているけど……。
私は優しくステンドグラスのシナノキに触れる。
「話をしたいなぁ…」
ポツリ、私がつぶやくと、
「あ、佐々木さんいたんだね」
と後ろから声が聞こえた。振り向くと、美術部の先輩・金沢加奈(かなざわ かな)先輩がいた。
「金沢先輩、こんにちは」
「こんにちは」
お互いにペコリと頭を下げる。金沢先輩のサラサラな黒髪ロングヘアーが前に垂れるが、すぐに金沢先輩は髪を耳にかける。
「今日はね、ちょっと嫌なことがあって、好きなことをしてストレス発散しようと思って来ちゃった。……迷惑かな?」
「……そんなことないですよ。私だけの部活じゃないので」
私はあまり金沢先輩の顔を見ずに答えてしまった。
いつもなら気にしない言葉なのに、私だけが文化祭の展示作品ができてないから、展示作品ができている金沢先輩に八つ当たりみたいになっちゃった……。
「佐々木さん、どこで描く?私、廊下側の机で描いてもいいかな?」
金沢先輩は美術部が使っている棚から自分のスケッチブックを出しながら、私に尋ねる。
この雰囲気の中、2人だけで描くのは正直気まずい……。あ、そうだ!
「あ、先輩。私、今日は文化祭の全校ダンスの振り付けを描いて欲しいと友達に頼まれていて……。今、スケッチブックを取りに来ただけなので、私に気を遣わないでください」
私はそう言うと、急いで棚からスケッチブックを取り出し、一礼をして美術室を出た。
金沢先輩が悪いわけではないんだけど、気を遣われながら美術室にいられるのは正直気まずい……。
私は早足で3階の3年7組へ向かった。
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