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西日が段々弱まる美術室。
自分の悩みも解決できていないのに、他人の悩みに首を突っ込むなんてどうかしていた…と私は後悔した。だけど、あの人は真剣に悩んでいた。
「……もう少しの時間だけ、シナノキに成りきってもいいかな」
絶対に他の誰にも言わないし、バカにしないし、どんな人か見ない!だから……と私が思っていると、美術室のドアがガラッと勢いよく開いた。
「あ、美寿々。遅くなっちゃってゴメン!!」
中に入ってきたのは、友達の中川知里ちゃんだ。知里ちゃんはポニーテールをブンブン振りながら、私の方に近づく。
「文化祭の展示作品の進み具合はどうかな?」
「どうもこうも…。見ての通り全く進んでいないですよ」
私は知里ちゃんに真っ白のスケッチブックを見せる。
「まぁ、10月末の文化祭まであと2ヶ月あるからさ、焦らずいこうよ」
「ありがとう、そうだね……。知里ちゃん、文化祭の実行委員も大変なのに、こっちに顔出してくれてありがとう」
「実行委員でも私は下っ端の方の2年だから。まだ余裕があるんだ。まぁ、じきに忙しくなっちゃいそうだけどね。まだあまりはっきりとは言えないけれど、今年の文化祭はかなり盛り上がりそうだよ~」
「へぇ、そうなんだ。楽しみ!」
「当日は一緒に回れないけど、それまではできるだけ一緒に帰りたいなぁと思ってます」
知里ちゃんはピシッと敬礼ポーズをした。私は思わずクスッと笑い、
「ありがとう。じゃあ、帰る準備をするね」
スケッチブックを閉じ、カバンを持って、知里ちゃんと一緒に美術室を出た。
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