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残った荷物を纏めに、離れに入った。
すでに不要な物を入れた段ボールが片付けられていることに苦笑した。
『お世話になりました』
一言だけ書いた便箋を机に置き、部屋をぐるりと見回して、僕は離れを出た。
茸鳥邸の竹垣の前でふと思い出す。
あ、僕はこの3年間、まるで無給だったな。
最初の偽小切手の金額は、ジジイから手渡されることはなかったし、2年目からは住まいも食事も提供され、竹細工のノウハウまでもらっているからという理由で辞退した。
夢だと思うことにしよう。
長い長い、3年間もの淡い夢だ。
なくなってしまった恋と同じように儚い時間だったのだと。
僕の追い求めていた恋は偽物だったけど、最後にかぐやに真実を突きつけたことだけは僕の誇りだ。
さようなら、かぐや。
君がいつか、「真実の姿」を見せられる人をみつけられますように。
庭の隅を、虎柄の猫がゆったりと歩いているのが見えた。
- End -
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