偽物と本物の間

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竹垣に隠れるように建つそれは、まさに御殿だった。 人間国宝級の竹細工師というのは、あながち間違っていないらしい。 「ワシのワイフじゃ」 ワイフっ!! お金のことは「お金ちゃん」呼ばわりなのに、ここだけまさかの横文字!! ワイフさんは年相応のシワや白髪はあるものの、とても綺麗な女性だった。 「初めまして。茸鳥の家内です。 こんな遠いところまでようこそいらしてくださいました」 「初めまして。石作と申します。 僕もまさかこんなに遠いところとは思いもしませんでした」 軽自動車に乗ってからかれこれ四時間が経過している。 自ら乗り込んだとはいえ、これはちょっとした詐欺で拉致だ。 「まあ、金治さんが何か失礼をしてませんこと? 何事も強引で強情ですから」 「ワシはそんなことはしておらんっ!!」 ジジイが叫ぶが、ワイフさんは華麗にそれをスルーした。 「でも優しい人ですのよ」 ワイフさんははにかむような柔らかい笑顔を見せた。 ジジイが顔を真っ赤にして『余計なことを言うな』と喚いている。 「お疲れになったでしょう。まずはお茶でも」 「そこまでしてやらずともよい。 茶葉がもったいないわ、茶葉が!!」 デレたジジイがツンツンしているが、そんな訴えに耳も貸さず、ワイフさんは僕を客間に案内した。 「あなたがあれほど苦心して探した家庭教師さんですもの、おもてなししなくては。 そんなにケチケチしていてはかぐやのためになりませんよ」 たしなめるワイフさんの声が耳に入った。 「あんなに笑顔にならんでもよかろう。 若いものの方がええんか?」 「何をおっしゃいますやら、私には金治さんだけですよ」 二人とも老齢だ。 本人たちは小声のつもりなのだろうが、相手に聞かせるためには声量が大きくなるため、否応なしに全部聞こえてしまった。 要するに仲睦まじい夫婦。 台所でお茶菓子がどうのと揉めてはいるが、結局いちゃついている老夫婦の会話に、少しだけ居心地が悪い。 仲のよい自分の両親を重ねてしまうから。
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