11人が本棚に入れています
本棚に追加
何 故 だ ?
浅川に迎えに来てもらい、途中で放りだされたら二度と公共交通機関がある場所まで辿り着けなさそうな山道を走り抜けて、ようやくついた茸鳥邸宅で、僕は荷物を取り落とした。
僕がもらった時間はたった一ヶ月だ。
なのに、なんでこんなに大人っぽくなってるんだ、この子は。
小学生から一気に中学生になったような雰囲気。
可愛らしさの中に女性らしさが顔を出し始めたような、そんな危うい空気をかぐやは纏っていた。
女の子は成長が早いっていうし、そんなもんなのかな。
出てきた疑問を無理矢理なかったことにする。
ワイフさんと浅川さんはごく自然にかぐやに接しているし、忙しいらしいジジイは不在で、誰にも何も聞ける状況ではなかった。
母に持たされた手土産には、母が作ったパウンドケーキやフィナンシェ、プリンなどが入っていて、かぐやは大喜びであれもこれも食べていた。
挙げ句夕食が食べられなくなって、ワイフさんにたしなめられ、シュンとしていた。
この辺りはまだまだ幼さが見えて、どことなく安心する。
「あんなに一杯あったら色々食べてみたいよね。
ごめんね。今度持ってくるときはちょっとずつ持ってこようね」
原因を作った僕が謝ると、かぐやは安心したようにしょげた顔から笑顔になった。
美しい笑顔だった。
年端のいかぬ女の子に恋をするような嗜好は僕にはなかったけれど、その笑顔は確実に僕の心に何かを植え付けた。
大きく揺れた心臓が落ち着くまで、僕はかぐやを見ることができなかったのだから。
宛がわれた離れの部屋に荷物を置くと、早速ベッドに転がった。
勉強開始は明日からだ、今日はまずこの環境に慣れたい。
かぐや……あの子は賢そうだ。
文法は問題ないだろうが、あとは耳のよさと、それを表現できる発音がどうかと言うところだろう。
勉強を終えてしまえばすることがなくなる。
空き時間にジジイの作品や工房を見せてもらおう。
今まで自分の時間などあってないようなものだったが、せっかく専属でバイトに来て時間がたんまりできたのだ。
休学届けを出している間に、自分の知識も増やせばいい。
ホームステイから帰ってきて以来の、長きにわたる実家から離れた生活に、僕は胸を踊らせた。
最初のコメントを投稿しよう!