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翌朝、浅川に最寄りの駅まで送ってもらった。
昨日浅川が候補に名乗り出てきた時は
「てめぇ、自分の年を考えろ!!」
と思いもしたが、サングラスを外したらそこそこの美丈夫で、年齢さえ目をつむればちょいワル親父と言ってしまえるような雰囲気はあった。
たがジジイのボディーガードだ、どう見積もってもやっぱり浅川もいいオヤジだろう。
車の中ではほぼ無言だったが、外の風景が山から街へ変わる頃、浅川が口を開いた。
「俺はお前が一番のライバルだと思っている」
「……それは何故?」
「オヤジも奥さんも、あんたを気に入ってるからだ」
浅川の言う通り、外堀は完璧だろう。
こいつほどではなくとも、信頼は得ていると思う。
ただ……。
「当のかぐやの気持ちはどこにあるんでしょうね」
自分に問うように呟くと、浅川が小さく息を吐いた。
「少なくとも……俺たちじゃ無さそうだ」
ハッとして運転席の浅川を見た。
こいつは何かを知っている?
ルームミラーの角に、浅川のサングラスの左側だけが映っている。
サングラス越しで瞳が何を語っているのかは見えないが、浅川は目尻を下げているように思えた。
「ただ、俺は必ず手に入れる」
断言した浅川をミラー越しにじっと、ただじっと見つめた。
この男は僕よりももっと長い時間、かぐやを見守ってきた。
そのグラサン越しに、彼女の真実も見てきたのかもしれない。
「強いですね、浅川さんは」
ため息と共に吐き出すと、今度は声をあげて浅川は笑った。
「いや、自分を奮い立たせないとダメなこともあるってことさ。
おっと。喋りすぎたな」
車が駅の送迎用駐車場に滑り込む。
きっちり止まり、フットブレーキが踏み込まれたのを確認してから、僕はシートベルトを外した。
「ありがとうございました」
礼を言い、ドアを開けて外に出た。
これから何時間電車に揺られるのだろう。
せめて外の空気を吸おうと深呼吸をしたが、今まで山の中の綺麗な空気で生活してきたのと、排ガスまみれる駐車場内だったのも手伝って、余計に息苦しくなっただけだった。
運転席のウィンドウがするすると開いた。
「ま、せいぜい楽しませてくれよ」
浅川が口角をあげる。
「さあ、どうだか」
明言を避けた僕に、彼の口許が引き締まった。
少なくとも僕の行く末は決まっているような気がした。
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