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紛い物同士だからこそ、その傷を舐め合うようにして、本物を作っていきたかった。
真実の姿を暴かれて、偽物の家族だと言われるのが怖かった。
だけど。
僕たちには真実を求めながら、決して自分の真実を明かさないかぐやに対して、見事なまでに恋心が消失してしまったのだ。
僕が手渡す眼鏡では、僕の真実の姿は見えない。
僕がかけても、彼女の真の姿は見えない。
けれど、『君の嘘』は見抜ける。
僕は茶番劇を一刻でも早く終わらせるべく、一番に名乗り出た。
「君は優しくて嘘がつけない」
眼鏡をかけた僕は、かぐやを見据えて言い切った。
かぐやの眉が僅かに上がる。
そう、知っているよ。
君が嘘をついていることは。
「先生、これでは先生の内面が見えない。
コレ、本当の姿が見える眼鏡ではありませんね? 」
当然だよ、ただの眼鏡だ。
君に見えているのは『今でも君を熱烈に欲している僕』でしょう?
「嘘をつく人は絶対に浮気をします。
ましてや私の何が好きなの?
まさか……見た目だけですか?ねぇ、先生? 」
自分の見た目だけしか信用できないのは寂しいことだね。
君は本当に美しいけれど、僕が君に惹かれたのはそこだけじゃない。
かぐや、僕には見えたよ。
真実の姿が見えない眼鏡で、君の真実の心を見たんだ。
僕が紛い物の眼鏡をかけて、君を責めていたことに、君は気付いてる?
そして、君がどれ程酷いことをしているのか解ってる?
きっと他の家庭教師も同じだろう。
浅川はどうか知らない。
秘策があるのかもしれない。
他のメンバーのテンションを下げないために、僕はどうしてもかぐやを求める青年を演じ続けた。
「言い訳は必要ないです。
お帰り下さい。先生、さようなら」
君にそう引導を渡されるまで。
去り際に、かぐやに聞こえるように呟く。
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