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控えめな音でスルスルと敷居を滑る襖が、広間と僕を遮断していく。
狭まる視界の向こうを上目使いに眺めれば、孤高の輝きを放つ教え子と、僕と同じように彼女に振り回される男達が見える。
教え子は僕をちらりとも見ない。
男達の中には気の毒そうに僕の姿を追う者、脱落者を見送りながら笑みを見せる者もいた。
『憐れみは要らないよ。
どうせ君たちも同じさ』
喉まで出掛かった言葉を飲み込む。
これでは負け犬の遠吠えに思われて終いだ。
ピシャ
襖が合わさって、目の前の景色が変わる。
ようやく項垂れた姿勢を正した。
世の中は紛い物だらけだ。
でも、僕は真実を見た。
シャツの胸ポケットにさっき『真実の姿が見える』と差し出した眼鏡を引っ掛け、僕はスタスタと……たった今結婚を断られて意気消沈した人物とは思えないほど意気揚々と……長い廊下を歩き出した。
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