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僕は自分が誰なのか解らない。
僕は赤ん坊の頃病院の前に置き去りにされた孤児だ。
父親も母親も知らない。
だけど、僕を育ててくれた心優しい夫妻なら知っている。
二人を当たり前のように両親だと思っていたし、夫妻も僕を大切にしてくれた。
普通に育って、普通の学校に通った。
成績は悪い方じゃなかったから、高校は少しレベルの高い進学校を目指した。
志望校に無事合格し、住民票を取ったときに初めて、両親だと信じて疑わなかったこの夫婦と血が繋がっていないことを知った。
「私たちはあなたのことを本当の息子だと思っているし、心から愛している。
だけど、真実を話さないままではいられないのも解っているから、私たちが知りうる限りのことを話そう」
父は、何年経っても子供に恵まれず、塞ぎ混む母のために僕を養子として引き取ったこと、そして血の繋がり以上に大事なことがあると言うことをこんこんと語った。
確かに何一つ不自由なく僕は生きてきた。
大きな商社に勤め、それなりのポストにいた尊敬する父。
月に二度、お菓子教室をひらく、笑顔が可愛い母。
休日には必ず僕の相手をしてくれる父と、いつも美味しいご飯を作ってくれる母。
良いことをしたら誉められ、悪いことをしたら叱られ。
こんなにも愛情を注がれたというのに、たった一つの秘密の暴露が幸せに影をさした。
……通りで両親に似ていないはずだ。
つくづく僕はついている。
世の中本当の親子だって色々あるのに、他人の僕を大事にしてくれる夫妻の養子になれたのだから。
こんなにいい両親、世界中探したって他にはいない。
……紛い物だけど。
いや、両親が紛い物なんじゃない、僕が紛い物なのだ。
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