生い立ち

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  それから僕は必死で勉強した。 たっぷりと両親の愛情を浴び、関係は良好なままだったけれど、多感な思春期に知ってしまった「僕は本当の子供じゃない」という事実はずっと影を差し続けた。 父と母の子供であり続けるためには、僕はいい子でなくちゃならない。 恥をかかせないように、僕を養子にして良かったと思ってもらえるように。 心優しいこの人たちに恩返しができるように。 高校時代、少し投資してもらって、半年ほど海外にホームステイした。 ホストファミリーはこれまたいい人達だった。 本当の親じゃなかったと後で知るより、はなから他所様の家庭にお邪魔するのは、ある意味気が楽だった。 パパもママもおおらかでたくさんのことを教えてくれたし、僕より二つ上のデイビッドとも仲良くなれた。 彼らとはいまだに交流が続いている。 自由の国は本当に自由だった。 自由と引き換えに、自己責任という重たいものも課せられた。 確かに自分を確立していなければ、自由の影に潜む良からぬ誘惑と危険はそこかしこに溢れていた。 そして、日本人ならではの奥ゆかしさや謙遜といったものが通用しない世界だと知った。 嫌なものは嫌、欲しいものは欲しい。 自己主張をしなければ何も得られない。 残り物に福など存在しない。 それを教えられた。 お陰で日本に戻った僕は、それまでの僕とは思えないほど、意見をはっきり述べる人間になったと思う。 環境が違えば、こんなにも生き方が変わる。 日本に戻り、心優しい夫妻のもとで、僕は僕としてのあり方をひたすら模索した。 少しでも、『本物』に近づけるように。
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