偽物と本物の間

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「僕は自分の学費と将来設計のために稼ぐ必要があるんです」 父は既に大企業の専務のポストについている。 現社長は二ヶ月前から体調が優れないと聞く。 もしも退任するような事態になれば、父が会社の長となるのが自然な流れだろう。 そんな父だから、経済不安などまるでない。 そもそも資産もある。 金には困っていないが、事実僕はバイト代をコツコツと貯めていた。 財を成したのは父の努力だ。 それに血の繋がらない僕がのうのうと乗っかるのは嫌だった。 自分で稼ぐということ、大事に使うこと。 それは長年見てきた父の背中から教わったことであり、自由の国で学んだこと。 僕が大切にしていることだった。 「ほう、君のお宅は相当な資産家だというのに、君はまだ金に執着するのじゃな?」 金に執着というよりは、プライドとか性分の要素が強いんだが、まあそういうことでいいよ。 だから諦めろジジイ。 「気に入った!!!! ワシも金は大好きじゃ。 この世に必要なのはお金ちゃんだけと言ってもいい。 あればあるほどいいっ。 どれだけあっても困らん。 お金ちゃんを数えるときほど幸せなことはないっ。 ああっお金ちゃんっ!! どうしてお前はそんなに仏頂面なのっ!!」 ジジイが若干錯乱ぎみだ。 グラサンか小さく「オヤジ」とたしなめた。 「僕が抱えている生徒は20人、僕は相場が高いので時給2000円で、成績が上がればボーナスを頂くこともあります。 月平均16万ですよ。 あなたの娘さんの専属になったとして、これだけの額を僕に支払えますか? 支払えないでしょ? 僕も少々時給をアップされたくらいじゃ満足できませんしね。 互いに何のメリットもないでしょう?」 諭吉の仏頂面をこよなく愛するジジイだ、僕一人に16万も払うはずがない。 ジジイはぐぬぬっと唸った。 仏頂面16人と娘の教養を天秤にかけているらしい。 悩まなくてもいいんじゃないかな。 普通に考えたら解るじゃん、一日一時間から一時間半の英語の授業に16万も投資するのが異常だってことくらい。
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