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おもむろに彼女は自分のカバンからベージュの手帳を取り出し、裏表紙に挟んであった2通の封筒をそれぞれ俺の前に置いた。
「色々、私なりに考えてみたの」
何処にでもあるその茶封筒に、封はされていない。
重い腕を持ち上げ、一つの封筒を手に取った。
ある程度の予測が出来る分、見るのを躊躇ってしまう。封筒を持ったまま動かない俺を無視して、彼女はキッチンへと姿を消した。
少しの厚みを指に感じ、中の紙を引き出すと妙に薄い質感の離婚届が出てきた。
折りたたまれた状態で薄っすらと透けて見える筆跡は間違いなく彼女の文字だ。
ここに俺の名前を書けば、彼女は楽になるのだろうか。
彼女は……俺は。幸せになるのだろうか。
喉の奥が苦しくなり、天井を仰いだ。潰れそうな胸の内へ無理やり空気を送り込むと、ミシミシと心が軋む。
仕事疲れとは異なる溜息を吐き出し、もう1通の封筒も手に取った。
そちらには何が書かれているのか。
慰謝料請求か、財産分与か。
結婚生活を顧みなかったツケが今頃来たのだ。
半ば自棄気味に紙を取り出すと、三つ折りになった水色の便箋が出てきた。
たった一枚のその手紙を読み、俺は息を止めた。
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