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「あの……」
「転んで服が汚れちゃったんだ!……ね、だからいいでしょ!?そんでちょっと話聞いて!」
服が汚れたから私と一緒にお風呂に入る。
考えれば考えるほど、奇妙なこじつけだ。
エクート様はこう見えて王妃様。
いくら仲が良いからと言っても、同じ浴槽を使っていいものだろうか。
けれど、エクート様は既に決定事項だと言わんばかりにぐいぐいと私の袖を引く。
お風呂……というのはつまり、イストルランド城の2階、中庭にある露天湯の事だろう。
一応の目隠しとパーテーションは施されているが、あの露天湯はもっぱらイストルランド兵専用と化している。実質、混浴も同然だった。
【王妃入浴中】
とでも張り紙をすれば大抵の人間は入ってこないだろうが、それでも万が一というものがある。
むしろ仲良しの兵士の場合、エクート様相手だから叱られないだろうと、堂々と入ってくる可能性の方が高い。
「ですが、私が使うなんておこがましくて」
「いいからっ!ね、ねっ!?」
やんわりと拒否するもエクート様は必死だ。
こう言う時に断りきれないのが私の性分というもの。
誰か……見張りをしてくれるなら、少なくとも覗かれる心配はない。それなら……
「…………サス、」
一番信頼できる人。
入り口にサスが立っていてくれれば、少しは安心できる。
「……ふぁ、へっ!!?あっおふ、オフろッ!」
振り返った途端、酷く赤面しているサスと目があった。
「みっ見にゃいから!!」
噛みすぎて、サスはおかしなことを口走っていた。
覗きをするのではと疑われていると勘違いしているらしい。
頭の後ろをかりかり掻き、サスは慌てて首を振る。
「ち、違う!見ないから、多分!」
堂々と“多分!”と言える辺り、サスらしいと言えばサスらしい。
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