あてがわれた婚約者

5/24
前へ
/441ページ
次へ
 トクントクンと心臓が高鳴る。  こんな感情初めてで。  胸を押さえた。 「悠子様、大丈夫ですか」  伊部が慌てて傍に寄ってきた。 「ええ……大丈夫よ。」  伊部に答えながら、もう見えなくなった彼の後姿を追いかけた。  きっと……  この病院の関係者。  わたくしとあまり年も変わらない感じだったから。  もしかして……?  少し期待して  心が躍ったんですわ。 「あの方は……多分。  星野外科の事務長です。」 「事務長……?」  伊部に視線を向けた。  伊部は相変わらずの無表情で。 「星野外科病院、現院長にはお子様は3人いらっしゃいます。  そのお二人が男性。  しかし、お医者様になられたのは次男と聞いています。」  伊部の言葉に……  わたくしの心が驚くほど沈んでいく。 「……そう。」  先ほどの方の顔すら見えなかったのに。  あの一瞬で恋に堕ちるほど  わたくしは愚かではありませんわ。  ……何を期待しているの、馬鹿ですわね。  自分の馬鹿さ加減に小さく笑う。  この結婚にそういう感情は不要。  わたくしが相手の方を好きになる必要なんてないし  相手の方がわたくしを好きになる必要も……  ないのですわ。  
/441ページ

最初のコメントを投稿しよう!

959人が本棚に入れています
本棚に追加