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トクントクンと心臓が高鳴る。
こんな感情初めてで。
胸を押さえた。
「悠子様、大丈夫ですか」
伊部が慌てて傍に寄ってきた。
「ええ……大丈夫よ。」
伊部に答えながら、もう見えなくなった彼の後姿を追いかけた。
きっと……
この病院の関係者。
わたくしとあまり年も変わらない感じだったから。
もしかして……?
少し期待して
心が躍ったんですわ。
「あの方は……多分。
星野外科の事務長です。」
「事務長……?」
伊部に視線を向けた。
伊部は相変わらずの無表情で。
「星野外科病院、現院長にはお子様は3人いらっしゃいます。
そのお二人が男性。
しかし、お医者様になられたのは次男と聞いています。」
伊部の言葉に……
わたくしの心が驚くほど沈んでいく。
「……そう。」
先ほどの方の顔すら見えなかったのに。
あの一瞬で恋に堕ちるほど
わたくしは愚かではありませんわ。
……何を期待しているの、馬鹿ですわね。
自分の馬鹿さ加減に小さく笑う。
この結婚にそういう感情は不要。
わたくしが相手の方を好きになる必要なんてないし
相手の方がわたくしを好きになる必要も……
ないのですわ。
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