一輪の真紅の薔薇

19/40
前へ
/441ページ
次へ
 後で知佳に連絡しなきゃいけないな。  そんなことを考えながら、ご令嬢からテーブルへ視線を移した。  そこにはクッキーが並んでいて。 「もしかしてそれこの前の?」 「そうよ。  とっても美味しいわ。  お父さんなんてコーヒーおかわりしたくらいよ。」  先日の東京出張でお土産に買って帰ったもの。 「煌人も一緒にどうだね。」 「じゃあ、そうさせてもらうよ。」  小さな頃からおやつには手作りのクッキーがよく出されていたし、親父も大好物だった。  その流れか俺も疲れた時や一休憩の時にコーヒーと一緒にクッキーが欲しくなる。  そのクッキーに釣られるように、俺は自然に空いていたご令嬢の横に腰を下ろした。 「煌人さん、新しいコーヒーです。」  俺が座るのを待っていたかのように節子さんは俺の前にコーヒーカップを静かに置いた。 「ああ、有難う。」  さっそくミルクを手にした。  いつものようにそれを垂らして、スプーンで軽くかき混ぜる。    黒は……  白と混ざってマイルドで優しい色を手に入れた。  いつもの優しい光景。 「……ミルク……だけ……ですの?」  いつもの動作に……  甘い声音が問いかける。  その声音に視線を向けた。  その問いかけは、実はよくされる。  今までの彼女からも  工藤からも。 「ああ、子どもっぽいでしょう。」  そう答えて小さく笑う。
/441ページ

最初のコメントを投稿しよう!

958人が本棚に入れています
本棚に追加