一輪の真紅の薔薇

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「いえ、そんなつもりでは……」 「聖時は普通にブラックで飲むんですけどね。」  俺の話を聞かせたって仕方ない。  そうゆうつもりで聖時のこともおりまぜる。 「俺はミルクを入れる方が疲れが取れる気がするので。  味がマイルドになるでしょう。」  本当の理由はそうじゃないけど……  建前は、そうゆうことにしている。  ご令嬢にそう答えて、にっこりと笑みを返した。 「ふふふ」  ご令嬢の零した笑い声が……  何故か無性に心を擽(クスグ)る。  優しくて可愛らしい笑い声。  ……そして……。 「お義母様もそうでしょう。」    ご令嬢は微笑んだままそう言ったんだ。  その言葉に……  本気で一本取られた気分で。 「あはは」  心の奥が何だか温かくて、笑い声が零れる。 「あら。よく見てるわね、悠子さん。」  おふくろも笑いながら答えた。 「そうですよ。  母がしていたから、真似したんです。  あはは。」  まさか、母の真似をしている。なんて、いい歳して恥ずかしくて言えるわけもないし。  俺の本音を見破られたのは初めてのことだった。  それなのに……  全然嫌な気分にならない。 「煌人は性格も母親譲りだからねえ。」 「そんなことないわ。  この子の行動力の凄さはあなたに似たのよ。」  親父とおふくろが俺の話なんかをするから、くすぐったい。  俺が主役なわけじゃないのに、気分がよくて俺はご令嬢に視線を向けた。  そして茶目っ気たっぷりに笑ってみせた。
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